空軍北領空*

ここは魔界の空軍の北領空。ここにはある1人の男がいた。
雨のような透明な薄い水色の長い髪をなびかせながら空を見上げる男。そう、この男が空軍の東西南北領空のリーダー「エギュン」である。
頰には雫のペイントがしてあり、外見はどこから見ても女性に見える。だが、彼は男である。女装が趣味であるのだ。

そう、これはその男、エギュンの物語である。







***








とある雨の降る日、エギュンは空軍の元帥であるフアフューノール=ウェイの元へやってきた。
今日は会議の日でもなく、個人的にフアフューに会いに来たのだ。

「……珍しいな、お前から俺に会いに来るなんて」

フアフューは夕日のように真っ赤な瞳でエギュンを写す。エギュンはいつもよりも控えめな笑みを浮かべていた。

「会いたくなったんだよー。たまには甘えさせてくれよ」

突如にフアフューに抱きつくエギュン。フアフューは驚きもせずに、エギュンの頭をいつものように撫でる。

「今日はあいつの命日だからなァ…。少し経ったらあそこに向かうぞ」

エギュンは無言で頷いた。


***



「お前はよく行くんだろ…?」

フアフューは海辺の近くに枯れた花束の前にやってくる。その花束を炎で燃やし新しい花束をその場所に置く。そして持ってきたお酒を花束の隣りに蓋を開けて置く。

「あぁ…俺様にはアイツしか居なかったからな…」

エギュンもフアフューの隣りにやってきて手を合わせて目を瞑る。

「アイツは今のお前みたいに不真面目で、巫山戯た奴だったな…」

フアフューが指を鳴らすとまだ降り続けてた雨が止んだ。雲はまだ少し灰色で、晴れやかな天気とはいえないがエギュンは少し嬉しそうに海に映る空を見上げた。

「それでも、アイツは妻としての役割はキッチリとこなしてたんだよ?…まぁ、たまには巫山戯てた時もあったな」

過去を思い出すたびエギュンの脳裏には優しくエギュンを見守る妻、「シリーナ」の姿が焼きつく。
だが、それは最初だけで後半からは悲しい気持ち、絶望感がドッとやってくる。

「…まだアレあるんだろ?お前の結晶」

「あるよ…。案内するよ」

すると、エギュンは海にだんだんと入っていく。フアフューもその後をついていった。



***


潜り続けること3分くらい、少し大きめな家が海の底に建っている。屋根は青色で普通の人間界にありそうな家。だけど、違うところは壊れかけていること。初心者が直した勘が半端ない。崩れないように基本岩で支えられている。

「…なんか、またボロボロになったなァ。そろそろ新しく建て直した方がいいぞ」

エギュンは積み上げてある岩を撫でる。すると綺麗な透明の結晶になる。結晶は美しく輝いている。しかし、ボロボロな家とは合ってないが、何故かマッチしていた。

「これが一番しっくりしてるでしょ?人魚姫のお城」

家のドアを開けると外見とは違って中は綺麗に片付いている。家具は海らしい可愛い物ばかりで水色で揃えられている。逆に何年も使われていないのがよくわかる。
リビングらしき大きな部屋にたどり着くと、ちょうど真ん中あたりぐらいに大きな水晶が置いてある。水晶の中には上半身は美しい人で、下半身は魚の特徴を併せ持つ、人魚がいる。
エギュンはその近くの貝殻のソファーに座る。

「久しぶりだなァ…シリーナ。今も変わらず美しい」

水晶を優しく撫でる。すると、フアフューはエギュンの隣に行きソファーに座る。
エギュンはそのままフアフューに身体を任せる。

「あれからずっと微笑んだままなんだよ」

水晶の中の人魚は、微笑んだままであった。死んではいない。息はしてるが植物人間の状態である。しかし、2度と生き返ることはない。命を繋いでいるのは胸に刺さった紫色の刃をした刀と水晶自体である。
刀で出血を止めていて、水晶には回復魔術が流れていて、それが息を繋いでいる。

エギュンはずっとシリーナから目を離さず静かにフアフューの肩に寄り添っている。

「優しい笑顔だ…。お前に向けて最後に微笑んだよな」

すると、バッと立ち上がってフアフューの胸ぐらを掴みフアフューを持ち上げる。

「最後なんて言うんじゃねェーよ!!まだ生きてるんだ!」

いつもの冷静で落ち着いてるエギュンとは違って取り乱し冷静さを忘れている。
それに変わってフアフューはいつも通り無表情である。

「じゃあ、なんであそこに墓を作ったんだ?」

その言葉を聞いたエギュンは悲しみな色を瞳に浮かべ、フアフューを離した。
フアフューは乱れた服を直してエギュンに向かい合うと、そのまま抱きしめた。

「冷静さを失ったらまた、あの日のことを繰り返すぞ」

「っ!」

エギュンは静かに目を閉じた。



To be continued